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海路   

新聞の書評を読んで、「聞いたことのない作家だけど、読んでみたいな」と思っていた本がある。
藤岡陽子著「海路」
先週、図書館で借りてきた。

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かなり薄い上、文字がすごく大きいので、あっという間に読めた。
定価1200円は、なんだか損した気分。自分が買ったわけではないのにね(笑)

小さな診療所に16年勤める志木という看護師が主人公だ(私という語り手でもある)
診療所を営むのは70代の医師。突然閉院すると言いだし、志木を慌てさせる。
そして閉院を目の前にして、すべてを放り出したかのように姿を消す。
医師の行方を追い、彼女は沖縄の渡嘉敷島に向かう。

43歳の孤独な看護師と、妻子に去られた過去を持つ70代の老医師。
診療所の若い事務員・水鳥さんは、渡嘉敷島へ行こうとする彼女に、半ば呆れながら言う。
「これで志木さんと先生の歳がせめて20ずつ若かったら発展あるかも、ですけどねぇ」

その通り、ふたりの間に何が起きるわけでもない。
人生に希望を失った医師の唯一の望みは、誰にも甘えず独りで最期を迎えたいということなのだ。

後で知ったのだが、この作品は同一テーマを6人の作家が競い合うテーマ競作シリーズということだ。
テーマは「死様」
なるほどね。
妻子に去られたとき、一方でほっとした自分。
誰にも甘えず誰をも甘えさせずに生きてきた自分が、最期になって寂しい、誰かに頼りたいというのは卑怯だと。
最期を独りで迎えたいというのは、たぶん老医師にとって、自分の人生に対する仁義なのだ。

寂しさが、ひしひしと胸に染みる本だった。
でも、後味は悪くない。二人の佇まいが清々しい。


  買い物に出たとき、コンビニの前に小さな雪だるまがあった。
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by masayama-chan | 2012-01-24 19:07 | Comments(4)

Commented by としちゃん at 2012-01-24 21:02 x
私も藤岡陽子さんという人、知りませんでした。
「死様」は「しにざま」でいいのかしら?
難しそうね。

前に瀬戸内寂聴さんが世阿弥が70歳のころ佐渡に島流しになって、それを追いかけてきた若い(といっても30代?)の女性との話を書いていましたが、なんだかその話を思い出しました。彼女は世阿弥にすごく献身的につかえたのですが。

70歳というと一般的には年寄りのイメージですが、でもその心の中は若い人と同じなのかもしれないわね。その年になってみないと分からないでしょうが。

マサさんはいろいろな人の本に挑戦していて偉いわ。私は決まった人の本を網羅したいタイプなので、選択の幅が狭くなっています。
Commented by としちゃんへ(マサ) at 2012-01-25 18:24 x
「しにざま」と読むみたいですね。「生き様」は聞きなれた言葉だけど、「死様」はあまり耳にしないですよね。

そうそう、その世阿弥の話を彷彿させるストーリーかも、です。
「私が先生と一緒に生きていく・・・・・・というのはだめでしょうか」と志木さんが島で医師に言うくだりがあります。この本のクライマックスシーンですかね。
でも老医師は、「40代と70代では見えているものが違いますよ。志木さんはまだまだこれからの人だ」と、やんわり拒絶するんですよね。それは彼の男としてのケジメであり矜持だったのでしょう。

作者の藤岡陽子さんは、実際に看護師をなさっていたらしいです。どうりで、志木さんの言葉には説得力があります。
例えば、「長年看護師をしてきた私は、うまく説明できないが、人の背中に「命の終わる影」を見ることがある」なんて箇所は、実感ですかね。
Commented by さと at 2012-01-26 11:33 x
あり時期を過ぎると年齢は個人差がとても大きいですね。
先日ある有名な作家さんの旦那様が80歳のときに40歳の女性と結婚されてすごく若々しく嬉しそうでしたよ。
私は驚きましたがご本人はすごく普通の感じでしたね。
まして70歳はまだまだ若いと思うけど〜(笑)
まだ死様というより生き様かなぁと主人と話しています。
いい人生を送りたいわ。
「命の終わる影」これは実感でしょうね。
Commented by さとさんへ(マサ) at 2012-01-26 23:52 x
この医師も、若いときは野心と希望に満ちていたはずですが、事情があって大学病院を追われるように辞め、診療所を始めます。
その時から虚無的になっていったんでしょうね。志木という看護師は彼の背中に「命の終わる影」をずっと見続けていたのかもしれません。
でも、これ小説ですから(笑)
実際は、「私が先生と一緒に生きていく・・・・・・というのはだめでしょうか」と30歳も年下の看護師に言われたら、「そうしてもらえると僕も嬉しい」とか言うんじゃないの。私、勝手に創作してますね(笑)

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