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「この国の空」   

昨日、テアトル新宿で、「この国の空」を観た。
戦時中の庶民の暮らしを、きめ細かく丁寧に描いた作品だ。


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終戦間近の1945年夏。
東京杉並の住宅地に、19歳の里子(二階堂ふみ)は、母親(工藤夕貴)と暮らしている。
度重なる空襲。乏しい食料。戦況は日に日に悪くなる一方だ。
閉塞感漂う状態の中で、里子は19歳の若さを持て余し葛藤していた。

隣家には、妻子を疎開させた銀行員の市毛(長谷川博己)が一人で住んでいた。
里子は市毛の身の回りの世話をするうちに、しだいに彼に魅かれていく。

とても印象深いシーンがある。
夜遅く、里子は唐突に庭で実ったトマトをもいで、市毛の家に持って行く。
「よく冷やして明日食べよう」という市毛に、「今食べてください!」と強く迫る里子。
「それでは」と、むさぶるようにトマトを食べる市毛。
赤く熟れた食べごろの瑞々しいトマトは、里子そのものなのだ。

妻子ある38歳の男なら、里子の気持ちを知っても分別ある対応をしてしかるべきなのに、市毛は「かわいい」と囁き、里子の心に火をつける。

そして終戦。明日か、半年後か、いずれ市毛の妻子は戻ってくるだろう。

里子(二階堂ふみ)の詩の朗読で映画は終わる。
茨木のり子の、「わたしが一番きれいだったとき」

「わたしが一番きれいだったとき、私の国は戦争で負けた」

明日の命も知れぬ極限の戦時下にあって、里子の突き上げるような生の息吹きが生々しかった。
二階堂ふみは、まっすぐな19歳を演じて熱演だけど、白い割烹着の似合う母親役の工藤夕貴も素敵だった。

by masayama-chan | 2015-08-19 21:23 | Comments(7)

Commented by チヒロ at 2015-08-20 16:13 x
マサさま

コメントへのお礼を言う前に、これを拝見しました。新宿でご覧になったのは、こんな素敵な映画だったのですね~。
マサさんの映画解説にドキドキしながら読みました。
マサさんは本当に筆が立ちますね!素晴らしいです。
「この国の空」見たいような怖いような・・。
失われた自分の若さに愕然としそうで(笑)
素敵なブログありがとうございます! 
Commented by masayama-chan at 2015-08-20 21:07
チヒロさんへ(マサ)

そんな、そんな、好き勝手に感想を書いたまでですので。多分に、独断と偏見で。
戦時中を描いていても、戦闘シーンや軍人が出てくるわけではなく、戦争映画としてはとても地味な作品です。
地味なだけに上映館は限られていて、それがとても残念です。
1983年に出版された原作を読んでみたくなりました。

そういえば、ずっと昔、新宿武蔵野館で、「卒業」とか「パリのめぐりあい」とかを見たような。
女性好みの作品が多かったですよね。
Commented by チヒロ at 2015-08-21 08:47 x
マサさま
そうです、そうです! 私も「卒業」や「パリのめぐりあい」を見たのは確か武蔵野館のはずです。あと、60年代に人気のあったパティ・デューク主演の「ナタリーの朝」という映画が気に入り何度も見に行った懐かしい記憶があります。ダサいナタリーの青春が自分とバッチリ重なるので思い入れがありました(笑)
ヘンリー・マンシーニの音楽も良かったですし。

マサさんの読書評に加えて、映画評もとっても楽しみにしていますので、宜しくお願いします。ご家族との楽しい日常ももちろんですよ・・・💛  チヒロ
Commented by masayama-chan at 2015-08-21 14:00
チヒロさんへ(マサ)

おぉ、パティー・デューク、懐かしいですね。
「ナタリーの朝」、私も観ました。少女から自立した女性への成長を描いた、素敵な映画でしたよね。
娘の恋人の職業を聞いたナタリーの母親が、「まぁ、ペンキ屋さん!」と喜ぶシーンが、なぜか印象に残っています。
すごくマイナーな場面なのに、どうしてでしょうね。

あと、パティー・デュークと言えば、「奇跡の人」ですね。
私は、中学生のとき、当時住んでいた浜松で観ました。
井戸水の場面で、感動して泣いたのを覚えています。

Commented by チヒロ at 2015-08-21 20:47 x
マサさま
そうでしたか! 「ナタリーの朝」をマサさんもご覧になっていたなんて! 映画は一人で行ったこともあり、まさか数十年経ってから話題を共有できる方がいたなんて夢のようです!
ナタリーの母がそんなセリフを言うところがあったのですね!
私は覚えていませんでした。恋人が(ナタリーが、だったかしら)戸棚みたいなエレベータに乗っている姿はよく覚えているのですが。

そうでしたね、パティー・デュークと言えば、「奇跡の人」を忘れちゃいけませんでした。マサさんに言われて思い出す私。
マサさんは本当によく覚えていらっしゃいます! 
「ナタリー・・」懐かしいとか言いながら記憶もかなりあやふやな私を再確認(笑)しました。

でも、嬉しいです。マサさんもその昔、同じ映画をご覧になっていたのですものね~。
TSUTAYAにDVDあるかしら・・あれば早速借りて見てみますね。
Commented by masayama-chan at 2015-08-22 16:24
チヒロさんへ(マサ)

いえいえ、私もストーリーはあまり覚えていないのですが。あの場面で、親は芸術家(画家)より職人(ペンキ屋さん)のほうを歓迎するのかと、妙に納得した記憶があります。
どうやら私は、他の人とは違う場面で感動したり泣いたりするようですね。

「奇跡の人」のパティー・デュークは天才的な演技でしたが、サリヴァン先生役のアン・バンクロフトもよかったです。
卒業では、妖怪?なミセス・ロビンソンでしたね。(笑)
Commented by チヒロ at 2015-08-22 19:24 x
マサさま、
そうですよね! アン・バンクロフト!
サリヴァン先生かと思うと、娘の恋人を誘惑しちゃうミセス・ロビンソン!  芸達者なのですね~。
映画っていいですね!by 淀川チヒロ、なんちゃって。

ブログ、引き続き楽しみにさせて頂きます💛

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