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久田恵さん   

先日、ノンフィクション作家の久田恵さんの講演を聞く機会があった。
タイトルは、「変わる家族の中で、私らしく生き抜くということ」

黒っぽい服に身を包んで会場に姿を現した久田さんは、小柄で想像通りの方。
開口一番、「本当はもうちょっといい声のはずなんだけど」
インフルエンザにかかって3日前まで声が出なかったそうだ。
当日はややかすれ声だったが、聞きにくい程ではない。
「それでね、私ね」と、親しい友人に喋るかのようなざっくばらんな口調で語りかけてくる。
講演は、想像以上に面白かった。

久田さんは30代の一時期、子連れでサーカスで働いていた。
私は久田さんの本は読んだことがないが、その話はなぜか知っている。
ずいぶん変わった人だと思ったものだが、この日の話を聞いて納得がいった。
小さい子を抱えたシングルマザーの久田さんは、働かねばならなかった。なのに、子供が保育園に行きたがらない。
「それでね、困っちゃってね」と明るく話すが、本当に困ったんだろうなと思う。
21歳で家出をしているから親にも頼れない。
サーカスに住み込みで働くことになったのは、そんな事情から。
「子連れで働けるのって、サーカスぐらいしかなかったのよ」

久田さんは、大手広告代理店の嘱託社員をしていたことがある。
キャリア女性(誤解らしいが)の子連れ住み込みサーカスは話題性があるのか、ある女性誌の取材を受けることになった。
これがきっかけとなって、作家への道が開けた。
後にサーカスの体験をもとに書いた本が出版されるが、本の取材のためにサーカスに入ったわけではないのだ。

やがて親と和解して同居。そして待っていたのは母親、時をおいて父親の介護。
息子の不登校という難題も抱えていた。
介護の話は書くと長くなるので次の機会にだが、印象深い話があった。
困難を乗り越えるノウハウとは?
「行き詰ったら飛ぶ。着地したところから歩き出す」

久田さんらしい言葉だ。私はたぶん、久田さんのようには飛べない。
久田さんの人生が荒野を切り開いて歩んできたようなものなら、私は舗装された道路を歩いてきた。
ときどきひび割れや窪みに出くわすこともあったけど、おしなべて平坦な道だった。
興味深い話、共感する言葉を反芻しつつ、私は久田さんのようにはなれないと当たり前のことを当たり前に思う帰り道だった。

by masayama-chan | 2016-03-08 15:34 | Comments(8)

Commented by チヒロ at 2016-03-08 16:55 x
マサさま
久田恵さんの講演の説明、臨場感あふれてさすがはマサさん、筆が立つ(記者より?!)と感心しました。
たしかに、友人にでも話しかけるような親しさ、飾らない人柄が伝わりましたよね~。
最初、「ファンタスティックに生きる」って具体的にはどういうこと?と不思議でしたが、今ある中に幸福を見出すというようなことなんだな・・と後で納得しました。

それにしても・・マサさんのコメントは実に的確で、ご自分の生き方と照らし合わせて書かれ、これまた素敵なエッセイですね! 
話変わりますが、私は今日、「これが私の人生設計」見てきました。イタリアの女性建築家の奮闘ストーリーですが、爆笑コメディーで、「ブリジットジョーンズの日記」シリーズを彷彿とさせるような映画でした。シネコンはガラガラでしたが(笑)
Commented by masayama-chan at 2016-03-08 20:38
チヒロさんへ(マサ)

そうそう、ファンタスティックに生きるって、夢を見ているような素敵な生き方ではなく、逆に未来に夢を見ない、日常の中に小さなハッピーを見つける、というようなお話でしたよね。とても共感できる内容でした。

介護とか不登校とか高齢者とか、興味深い話題は盛りだくさんでしたが、途中で飽きちゃったというか、ブログに書くことに(苦笑)

チヒロさんも、通な?映画ファンですね。私は、西島さん(&たけし)の映画を見たいと思っていますが、体調のいいときに行かないと爆睡してしまいそうです。
Commented by チヒロ at 2016-03-09 07:33 x
マサさん、「ぷらざ」掲載おめでとうございます!
またまた快挙ですね! 最近では、新聞を開けるとまずマサさんの投稿を探す癖がついていましたが(!)、今朝はまさに「ビンゴ!」でした。
お母さまと牛乳の関係もとても面白く読み、緑内障を心配する娘の優しさに溢れる、すてきな文章で、朝からほのぼのです~。我が家はY紙はとりあえず月末で購読終了ですが、夏からまたとりますので、楽しみにさせていただきますね~。
(またブログで紹介して下さるのを楽しみにしてます)
チヒロ
Commented by masayama-chan at 2016-03-09 15:04
チヒロさんへ(マサ)

まぁ、早速お目に留めていただいて、ありがとうございます。
今朝、早起きした夫が(ゴルフのため)、私の顔を見て「牛乳………」とか言うので、「え?牛乳もうなかったけ?」と間抜けな会話をしてしまいました。

一月ほど前にも、ぷらざに投稿しましたが、その時は掲載されませんでした。
でも、理由はなんとなくわかります。どんなに言葉を飾っても、自分の心に真に響いた出来事でなければ、読み手(最初は記者さん)に届くわけがないんですよね。
なんて、反省を込めてエラソーなことを書いてしまいました(汗)

紙面でチヒロさんにお目にかかることを楽しみにしています。

Commented by チヒロ at 2016-03-10 08:18 x
マサさんの、投稿掲載への考察、的を得ていると、私も思います!
今、羽田空港でお客の飛行機が離陸するのを待っているところなので、改めて、ブログにアップされたプラザ、拝読しています。しみじみした良い文ですね~。
私も頑張りますね!今日も、良い1日をお過ごしくださいね❤ チヒロ
Commented by masayama-chan at 2016-03-10 20:39
チヒロ」さんへ(アサ)

朝早くから、お客さまのお見送り、ご苦労さまです~。
私は、今日はジムに行くつもりでいましたが、お天気が悪いので気分が盛り上がらず、家でぐだぐだ過ごしてしまいました(反省)
仕事をされている方が、実はとても羨ましいです。
ステキなお仕事をされているようですね。


Commented by チヒロ at 2016-03-10 21:55 x
マサさん、こんばんは。
お天気が悪いし寒いし、気分が盛り上がらない、って、よおく分かります~!私もしょっちゅうですから~。
で、マサさんのブログ見て、「充実されてるな」って励まされるというわけなのですよ、内心。
私は一昨年まではフルタイムでしたが今はフリーになったので、仕事は ”忘れた頃にやってくる”(天災みたい?!)程度です。でも、この年齢って、そう、しゃかりきにならずに、忘れた頃に来る仕事を受けるくらいで良いのかな、あとは文章修行をもっと真面目にやるほうがいいかな、って思ったりします。

まあ、世間が、(この人は使えない)となれば仕事が来なくなるでしょうから自分から辞めることもないのですけどね(笑)

というわけでマサさんのブログ、心のオアシスにさせて頂いてますので今後とも宜しくお願いしますね。
お母さま、目やお身体、少しでも快適に向かわれると良いですね。 おやすみなさい。追伸:そういえば、このところ、コメント送信作業がすごくスムーズになりましたよ。
Commented by masayama-chan at 2016-03-11 20:31
チヒロさんへ(マサ)

平凡な日常を書いたブログを、オアシスと言っていただいて、恐縮です。
そして、コメントの送信がスムーズにいくようになって、よかったですね~♪

今日は、午前中は母のところに行き、急いで家に戻って「おでん」を作り、下高井戸シネマへ映画を見に行きました。
上映作品は、「恋人たち」。今日が最終日で、どうしても観ておきたかったのです。
帰宅したら、予想外に早く帰った夫が、ひとりで「おでん」を食べていました。熱燗で(笑)

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